人材の現地化②経営管理コーナー

第7回 2007年07月

日系企業は人材の現地化は避けて通れません。
中国で現地化するために、どんな中国人をどうやって活用するのか、前号に続いて分析いたします。

日系企業で聞く中国人の嘆きと誤解

日系企業で働く中国人幹部の多くは、下記の「嘆きと誤解」をもっています。

「1人の中国人を説得するには1人の中国人でよいが、1人の日本人を説得するには10人の中国人が必要」
「私には権限がありません」
「日本人は決定が遅すぎる」
「日本人は私たちの仕事を褒めない、認めない」
「日本人部長はどうせ数年で変わる、適当に過ごせばよい」
「部長以上は日本人が交代で就く、いくらやっても副部長止まりだよ」

「嘆きと誤解」と書きましたが、残念ながら大部分が事実です。

これを単なる誤解に変え、そして誤解を解いた「とき」に初めて人材の現地化が進みます。「とき」とは、そして前項の人材採用で触れた「根本的な課題解決をしない限り採用も困難だ」ということは、実は同じことを指しています。このシリーズの第一回に「何故日系企業が欧米系企業より人気が低いのか」という文章がありますので、これもご覧ください。

「中国人はすぐ辞める」?

中国の大学生の多くは6月~7月に卒業しますので、今はまさに、新卒採用内定者の教育時期です。しかし、中国での多くの日系企業(特に中小・中堅)は新卒者を採用せず、中途採用が主流です。

中途採用が多い理由は、即戦力が欲しいということに加えて、新卒者を長期的に育てても、どうせ直ぐに辞められるから意味がないと聞きます。しかし、実態をよく観察すると実は教育体制に問題がある、教育体制がない、言い換えれば、退職・転職が多いという言い訳で、その実は、人材を育てる環境すらないというのが多くの日系企業の実態です。

いずれにしても、中国では、離職率の高さと社員教育の難しさをよく聞きます。経営者にとっては頭が痛い話ですねー。どうしてでしょうか?

「長期安定雇用」を至上という日本的習慣を基に考えていませんか?

最近は、日本でも雇用契約(中国での労働契約)を結ぶようにはなってきましたが、そこに期間が入っているでしょうか?期間の無い雇用契約ほどあいまいなものはありません。年功序列・終身雇用は減ってきましたが「長期安定雇用」が日本の大部分の制度の前提となっているのは相変わらずです。あいまい雇用契約がその典型です。中国に進出したら、中国としての雇用形態と雇用習慣を前提に人事政策を考えなければなりません。

労働契約満了で、継続契約するかどうかは労働者の権利でもあります。労働者が継続契約しないのは、すなわち退職するのは、会社が継続勤務する価値評価に不合格だったと認識すべきです。辞める者に責任転嫁してはいけません。採用面接で合格通知を出したのに、入社してくれなかったことと同じです。

「日本ではこうしている」「日本ではこれが常識だ」という自文化の価値観を押し付けても意味がありません。「チームのため」「会社のため」という集団主義的価値観は、中国人に理解しにくいことです。そもそも個人主義志向の強い文化であることはご承知のとおりです。

事例研究:モチベーションアップと教育

上海市内にある、日系貿易K社の事例。

K社は創業4年目であるが、さっぱり売り上げが伸びない。扱う商品は、親会社が扱っているものなら何を売ってもよいと自由度が高く与えられており、売るものに不足はない。これでは会社が危ないと、親会社から派遣されている管理部長から「営業部員のモチベーションアップ教育ならびにセールスマン教育をして欲しい」とのお話。

しかし、お伺いし管理部長のお話をお聞きした結果、営業部員教育だけというのはお断りした。その前にやるべきことが山積していたからである。

現状を伺った内容と順序は次の通り。

  1. 営業部員に個人別目標は与えているか
  2. 営業部長は個人別目標を達成するため、部下に教育をしているか
  3. 目標達成または未達成に対する適正な人事評価制度はあるか
  4. 歩合給など成果に報いやすい給与制度はあるか 営業部の目標はあるか
  5. 会社として幹部教育をしているか
  6. 会社の目標、事業計画を作るために各部長は参画しているか
  7. 会社の目標、事業計画はあるのか
  8. 会社としての経営方針はあるか

企業としてやるべきことをしなくて、営業部員のモチベーションアップし販売テクニックを教えたら、その営業部員はどうなるのでしょうか?幹部不信、会社不信をまねき辞めるだけです。我社は社員教育をしっかりやっているが退職率が多くて困るという方には、思い当たる節があるでしょう。

K社は、何をすれば売り上げも増え、営業部員も辞めずに頑張れるか?は、お分かりでしょう。

島根 慶一

佐藤中国経営研究所・上海知恵企業管理諮詢有限公司 佐藤 忠幸

経営管理コーナーでは、中国での企業経営はいかにあるべきか、事例を中心としたご紹介をしています。

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