異文化コミュニケーションの難しさ・翻訳業界の新たな挑戦上海ビジネスフォーラム活動報告

開催概要

日時 10月18日(土) 14:30~17:00
テーマ 異文化コミュニケーションの難しさ・翻訳業界の新たな挑戦
講師 上海携達商務諮詢有限公司 総経理 曾 慶斌さん
進行 上海携達商務諮詢有限公司 阪田 裕一さん
場所 上海FESCO研修センター
出席 54名

内容

1.各国言語リスト

上海ビジネスフォーラム活動報告 異文化コミュニケーションの難しさ 翻訳業界の新たな挑戦

アジア:人口が多く、自国言語の使用が多い
ヨーロッパ:数カ国の言語を使用
アフリカ:英語・仏語と母国語の共存
北米・中米:南米:英語・スペイン語
オセアニア:圧倒的に英語

翻訳会社としては取扱商品ということになるのでしょうか?とにかく、地球にはたくさんの言語があることを再認識しました。

2.翻訳・通訳の分類

翻訳の分類

内容:産業翻訳、文学翻訳、映画字幕翻訳など
実現方法:実務翻訳(人間が翻訳)、自動翻訳(ソフトウェアが翻訳)
担当者:ネイティブ翻訳(母国語翻訳)、非ネイティブ翻訳(非母国語翻訳)
品質:完璧な翻訳、概要翻訳

通訳の分類

内容:案内通訳、テーブル通訳、展示会通訳、技術サポート通訳、ビジネス商談通訳、記者会見通訳、会議通訳
実現方法:逐次通訳、同時通訳

一口に翻訳と言っても、内容や方法など様々なプロセスを経ていることがわかりました。翻訳は文字として残りますが、通訳した言葉というのは録音や録画をしなければ、空中に消えてしまいます。ここが大きな違いでしょうか。

3.産業翻訳とは

金銭によって取り引きされている翻訳

マニュアル文書:IT、電子、機械製品、セキュリティマニュアル、作業標準書
規定・法律文書:会社規約、法律、契約書
その他文書:Website、報告書、各種資料、カタログ、教材など

考えてみると、私たちの周辺には産業翻訳が溢れています。

4.翻訳の難しさ

文化の違い①

米国人のボブは日本滞在歴27年、日本語は勿論ペラペラです。久しぶりに米国の実家に帰ったボブ、雪かきをしていたお兄さんが居間に戻りました。日本では日本語で生活しているボブは、つい「お疲れさま」と英語で言おうとして、言葉に詰まってしまう。「お疲れさま」という英語がない!

◆直訳できない場合は意訳
お疲れさま=How did it go?
いただきます=Everything looks so delicious.
つまらないものですが=I found something really nice for you.

そもそもボブはお兄さんと一緒に雪かきをやるべきです!お疲れさまなんて言ってる場合じゃありません。

文化の違い②

「你在什么单位工作?」の日本語訳文は?

中国では政府機構も国営企業でも全ての職場が「单位」と呼ばれるが、日本では国営企業が少ないため、団体、機関、部門、組織、職場など、様々な訳語が考えられる。辞書だけでは判断できない。

辞書はあくまでも参考。翻訳者の腕の見せどころです。

言語表現の違い①

シンクロナイズド・スイミング(花样游泳)に関する翻訳

日本語原稿:昭和59年 ロサンゼルス五輪 デュエット(元好三和子/木村さえ子)銅メダル
中国語原稿:1984年 洛杉矶奥运会 双人(元好三和子/木村冴子)铜牌

翻訳方法
①Webで「木村さえ子」を検索、漢字名がない。
②本人に確認ができない
③顧客に確認:冴子、佐枝子、佐恵子、紗江子、小枝子など。
他の例:マラソン「野口みずき」選手。水木、瑞希など。

何ヶ月か前、CCTV8を見ていたら女優の泉ピン子さんが「泉平子」になってました!

言語表現の違い②

「コンプライアンス」の中国語は?

英語から日本語への翻訳では、外来語をカタカナで翻訳。
 Compliance=コンプライアンス

中国語は全て漢字で翻訳。しかも、もともと中国には概念がない。
①コンプライアンスの意味を理解
②漢字でその意味を表す言葉を作る
中国語の訳文=合规=法令遵守(特に企業活動における)

日本人として、カタカナに感謝です!しかし、中国でそれを使っては、理解してもらえません。

言語表現の違い③

特に日中間において、同じ漢字でも意味の異なるもの。

床(ゆか)→ ベッド
娘(むすめ)→ 母親 など

翻訳だからこそ、違いがはっきり表れます。

ネイティブ翻訳における専門用語

IT、電子、自動車、化学、医学、金融、法律などの業種の専門用語。
日本人でもわからない日本語、中国人でもわからない中国語。

専門用語対策
・その専門分野が得意な翻訳者に依頼(コスト高く、翻訳者発掘と確保が難しい)
・顧客の協力(顧客から資料を提供してもらう)
・各専門分野の辞書を揃える
・Web(サーチエンジン)
・社内辞書の構築と管理

日本人でもわからない日本語を外国語に翻訳するなんて、ここが翻訳会社の凄いところだと思います。

方言の翻訳

井村雅代さん(シンクロヘッドコーチ、大阪出身)へのインタビューより

日本語:
欲張りということはあかんということですよ。欲張りいうことは放っておかれているということなんですよ。進化してなんぼやから。向上しないってよっぽど、、、。現状保ってるっていうことは、これは要するに放っていかれるっていう、、。

中国語:
贪心是不行的。贪心的话,别人就不管我们了。改进和上进才有价值。逆水行舟,不进则退。墨守成规是不行的,必需舍弃陈旧的东西。

参加者からもコメントがありました「そもそも日本語の意味がわかんない」と。何を伝えようとしているのかを理解することが翻訳でも大切だと感じました。

5.翻訳業界の現状と新たな挑戦

現状1:欧米日言語翻訳市場の成熟化と中国語翻訳市場の成長

社団法人日本翻訳連盟の2007年の調査によると、日本には推定で2500億円の翻訳市場があり、日本の顧客はコストの安い中国に目を向けている。
同じく、中国翻訳工作者協会の2007年の調査では、中国には推定250億元の翻訳市場があり、中国の経済発展に伴う拡大が予想されている。
翻訳需要ではIT、製造業、金融、法務、特許分野が多い。

挑戦 ≫ 中国人、外国人の翻訳者、校正者の育成

現状2:市場の混乱

価格、見積もり方法、翻訳レベルにおいて、市場が混乱している。

挑戦 ≫ 価格の合理化、計算の標準化、翻訳レベルの向上

現状3:矛盾~市場飽和とクライアントの不満

翻訳会社は多いがクライアントの満足度は低い(日本2000社以上、中国3000社以上)

挑戦 ≫ 品質管理システムの構築

現状4:Web化と通信化

インターネットの発展に伴い、Websiteの翻訳量が急増。
業務に電子メールを利用しコストダウン。

挑戦 ≫ 遠距離翻訳者の募集、管理、育成

市場の成熟化と混乱、品質の追求とIT化。翻訳業界も淘汰と競争、ボーダレス化の時代を迎えていると感じました。

6.会社案内

7.質疑応答

上海ビジネスフォーラム活動報告 異文化コミュニケーションの難しさ 翻訳業界の新たな挑戦

この場には書ききれないほどのたくさんの、しかも鋭い(?)質問がありました。曾さんと阪田さんにより一つ一つ丁寧にお答え頂きました。

日本人との通訳や会話を、日常的にしている中国人の方から苦言も出ました。日本人が何を云わんとしているのか理解に苦しむことが多い、即ち日本人の日本語がいい加減だという事です。また、日本語を中国語に直すには、中国語をしっかりと勉強していないとできないとも。

話し手も聞き手も、自分の母国語への理解が大事だということが結論の様です。
(質疑応答時間40分)

まとめ

上海ビジネスフォーラム活動報告 異文化コミュニケーションの難しさ 翻訳業界の新たな挑戦

勉強会としては過去最多の54名が参加しました。これも、講師の曾さんの誠実な人柄の表れでしょう。参加者たちは翻訳会社や翻訳業界について、専門的な内容を理解することができました。

今後、通訳や翻訳会社を利用する際、または将来自分で翻訳会社をやりたいという人には今回の勉強会はとても役に立ったと思います。総じて「勤勉であれば、翻訳の仕事ができる」という曾さんの言葉が印象的でした。

新規会員及びゲスト参加

イライザさん(拓知投資諮詢(上海)有限公司)
青山 宗典さん(上海万彩食品有限公司)
金 華さん(上海友来企業管理諮詢有限公司)
張 珂叔さん(上海友来企業管理諮詢有限公司)
佐藤 康弘さん(上海瑞京広告有限公司)
中村 進吾さん(上海エクスプローラー)
松浦 文雄さん(上海達伊医知商貿有限公司)
山盛 謙吾さん(上海楽星信息科技有限公司)
山本 有子さん)
榎木園 翼さん(上海新可風文化有限公司)
劉 陽さん(兆辰匯亜法律事務所)
賈 暁海さん(兆辰匯亜法律事務所)
王 孝鴻さん(三得利(上海)食品貿易有限公司)
山本 和弥さん(上海交通大学)
菊田 啓さん(凸版(上海)企業管理有限公司)
大石 香織さん(紹興御茶村 上海事務所)
渡辺 裕介さん(上海晟峰宝司大科技有限公司)
高橋 克徳さん(上海晟峰宝司大科技有限公司)
油谷 恵子さん(上海対外貿易学院)
久能 克也さん(ぶりコム)
田村 美津子さん(上海陽邸楽珈琲吧有限公司)
陶 琴さん(中国語教師)
方 新さん(中倫律師事務所)
太田 栄一さん(VIP travel)
高山 知子さん(Y&M Travel)
範 文臻さん(上海携達商務諮詢有限公司)
陳 麗峰さん(上海携達商務諮詢有限公司)

食事会

上海ビジネスフォーラム活動報告 異文化コミュニケーションの難しさ 翻訳業界の新たな挑戦

勉強会会場付近「玉佛寺」敷地内にある精進料理専門店にて、参加者36名。

勉強会の活気をそのまま食事会に移し、いつも通り楽しく美味しい時間を過ごしました。

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