「商標」「不正」「秘密漏洩」2012法律実務実例上海ビジネスフォーラム活動報告

開催概要

テーマ 「商標」「不正」「秘密漏洩」2012法律実務実例
日時 8月25日(土)15:30~17:30
講師 開澤法律事務所 王 穏 弁護士
アシスタント:同所 三津 郁子さん
出席 33名

概要

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本日は、SBF恒例の法律関係の勉強会です。
講師の王さんが親しみやすい話題を交えながらお話して頂いたこともあり、とても身近で大切なことだということを勉強させていただきました。
今回は、日本と中国を往復しながら活躍されてお忙しい王弁護士を、同事務所でSBFの会員でもある三津さんが見事にアシストしていただきました。

【勉強会】

1.会社商標権の保護

iPadの商標争い

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有名な商標争いのお話
唯氏と言う方が運営している「唯冠」と言う会社が、iPadの商標を取得済みでアップル社が商標を買い取るという事態に。

元々、アップル社が休眠状態のiPadの商標を取り消す裁判を、イギリスで起こした。
海外の商標はアップル社が勝訴するも、中国大陸においては「唯冠」の勝訴。
そこで各地方で裁判を行なっていたが、2012年にアップル社が6,000万USDでiPad商標権を買い取ることになったそうです。

→ この事件の背景には中国の裁判所の制度に問題があり「唯冠」は赤字状態の会社であり、この事件を問題視する世論がある一方で、アップル社の傲慢な態度を問題視する世論もあったとのことです。

商標の有効な保護

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では、どうやって保護すればいいのか?

iPad2が出た際、2,000万人民元で商標の買取りが行われたそうです。
中国人個人や企業が海外の商標を登録するのが流行している模様。
大企業では、先手を打って、中国でビジネス展開をする前に、中国で商標登録を行なうことが多いようです。

しかし、中小零細企業ではそんな大金を準備することは難しく、なかなかできないのが正直なところです。

商標権は地域性があります。
先に商標を取られてしまうと、関連性がなくても先にとった人の方が勝ちです。
商標権を取られてしまった場合は、中国では使えなくなってしまい中国の商標権者の権利を侵害したという理由で罰金や展示会での展示中止とかになる場合もあるそうです。

商標権者が申請すれば、税関で商標チェックを行なってもらうこともできます。
日本で有名な商標権を中国個人が申請できるということもあり、非常にこまったことになる場合もあるそうです。

中国人個人や企業に先に商標権を取られてしまった問題は、中国で裁判を行った場合、中国人個人or企業が勝ってしまう事が多い模様です。
この場合は、商標権を買取りまたは商標権者から商標権を授権というややこしいことになる場合もあります。

ちなみに、中国人個人や企業が3年以上商標権を利用してない場合商標権取り消しの申し立てが行えます。しかし、3年間使ってないという証拠を提出しなければなりません。
この立証がとても困難で難しいので、商標権の買取り等を行ったほうが早く解決する場合がある模様です。

2011年度、中国における外資企業の商標登録出願状況

商標戦略の簡単な方法は「中国で先に商標登録を行う」ことです。
欧米企業は権利意識が高いので、出来る限り早く申請するようになっています。
日本企業は、中国で商標権問題でかなりトラブったので、申請する会社が増えているとのことです。

商標登録は、外国の企業だと3年位かかっていたらしいが、現在はスピードアップされておりそこまで時間はかからないとのことです。

外国人や外国人企業も商標登録出願登録は可能です。
しかし、外国から批判が高まったため、中国人個人は商標が取り難くなっています。
でも、実際は個人で自営業のライセンスを取って出願するなど、抜け穴はまだまだ色々あるらしいです。

商標出願のプロセス

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プロセスは日本とほぼ一緒で期間は日本とさほど変わらない模様です。

・登録出願を行う場合、先に類似の商標が登録されてないかチェックする。
→ しかし、検索の精度は高くないそうで、3回に1回は却下される場合がある。
→ 出願したからといって、必ず通る訳ではないので注意が必要。

他者で登録出願をしている商標が、当方の商標権を侵害する可能性がある場合、どの様にして権利を守るか?

・日本企業が商標権を持っていれば、出願却下・異議申立てが出来ます。

同一または類似商品の認定原則

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・公衆の一般的注意力の原則
・全体監察・要部監察及び分離監察の原則
・商標の顕著性と知名度考慮の原則
↓ 要は、一般的な目線で
「同じではないですか?」という商標はアウト!ということです。

商標を先にとってしまえば強く出られますが、個人やライバル企業に商標を先に取られてしまうと立場が弱くなる模様です。

昔は外国語だと通る場合が多かったのですが、最近は、意味の類似性まで確認されているようなので注意が必要です。

もし、先に取られたら?

「個人の商標権者から買い取る」のが一番楽な解決方法のようです。
(お金が欲しいだけなので、交渉しやすい → 10万前後)

しかし「ライバル企業が商標を登録」してしまった場合、その該当商標は、中国国内で全く使うことができなくなってしまいます。
また、ライバル企業が別の全く関係ない見せかけの企業に商標を譲渡することもあるそうなので注意が必要です。
地元で影響力がある人を通して話をすれば問題を仲裁してもらえる場合はありますが、譲渡されてしまうと、どうすることもできなくなってしまいます。
→ 業界で有名な話になりやすいので
「あぁ、おたくの商標の件、知っていますよ。」ということで、企業イメージに対するダメージは少ない模様です。
→ むしろ価格競争の問題の方が、商標の問題よりも深刻かつ重要みたいです。

2.労務人事問題

労使関係の現状分析

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労働者の権利意識が高まっていて、労組問題の件数が増えています。
労働問題は仲裁所に仲裁申請をする。(5元でお手軽に申請可能)
「ダメ元で仲裁をお願いしてみよう!」と言う意識も高まっているらしいです。
また、仲裁委員は労働のプロではないので、プロの裁判官の話だと、専門的な知識が持ってない人が多い。

労働仲裁の担当者が抱えている案件は、1人あたり200件と非常に多いです。
そのため、仲裁にかける時間は2~3時間程度で、書類を読む時間まで考慮しても、1件あたり10時間位しかかけられないそうです。
また案件処理が遅れノルマが達成できないと罰則が有るらしいので、案件処理をもの凄いスピードで行う必要があるそうです。
→ このような場合、仲裁員は企業に圧力を掛ける場合があるそうです。
(そのほうが早く問題を解決できる事が多いので...)
→ また「資本家が給与を与えていないから生活が豊かにならない」と言う認識が広まっているので、企業側の立場が弱いという事もあるらしいです。

中国の全体の雰囲気としては
「企業が良い給与を出してくれない」と言う社会風潮があるので注意が必要です。
同じ地域で一番高い給与は幾らか?と言う情報は、従業員も良く知っています。
その為、一番高いところと比べて賃金値上げの交渉をしてくる上に、一番高い給与のところとしか比較しないので、交渉の際には注意が必要です。

給与・就業規則については、必ず従業員に確認のサインを貰う様にした方が良いそうです。労組問題は「騒いだものが徳をする」ので、企業としては厳しい立場に立たされる可能性が高いです。

実例

労働争議解決について

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・問題があった時、仲裁で負けても裁判で勝てる場合があります。
→ 仲裁委員は法律の素人なので、裁判所で覆る場合も多い。

例)労働組合の幹部は保護を受け、5年は解雇できない。
しかし、労働組合幹部が私利私欲で会社にとって重大な問題が発覚したため解雇した。
→ 仲裁では、会社が負けた
→ しかし、その問題不正の噂が広がり、問題を起こした方はその後他の企業に再就職できなかったらしいです。

事例1:業務怠慢の副総経理からの報復

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仕事をしない副総経理のお話で、
その副総経理に対して業務を依頼しても、様々な理由で業務を行わなかったそうです。
企業側はたいそう困っていたのですが、その副総経理の見解では
「なぜ、中国に詳しい自分の意見が通らないのか?」という認識だったそうです。
「中国ビジネスの素人の日本人責任者に何がわかるんだ!?」
ということで、しばしば対立することになったようです。

その後、企業側は会社の協議を通じて解雇の決定がなされたそうです。
しかし、経済補償金の問題で、意見の不一致が起こった事が発端で、様々な報復行為が発生した模様です。
たとえば、日本人責任者の違法就業を行政機関に密告したり、部下も先導して会社へいろいろな報復をしたり、社内でトラブルになっている光景の写真をネット上で公表したりなど。
その結果、事態は非常に泥沼化してしまったそうです。
(結局最終的には、経済補償金をがっぽりもらって、退社したそうな。)

事例2:一緒に会社やめないか?のお誘いトラブル

某日系企業のとある従業員は、勤務期間中に会社上層部とそりが合わず退社することになったのですが、離職時に会社の財務資料と文章を大量に持ちだしたそうです。
そればかりか、要職の部下に一緒に離職するように勧誘し会社を困惑させてしまいました。

中国では、会社ではなく上司についていく場合が多いので、このようなトラブルはよく発生するようです。
また、親子ほど年齢が離れていると先導を受けやすい場合もあります。
社員同士のつながりは、時に困った問題の引き金になる場合も有るようです。

この事例の方の場合は、実際にやめたり、休暇をとって業務の進行を阻害したりと色々とトラブルの種を会社に残していったそうです。

事例3:定着率の高い社員の解雇トラブル

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某日日系企業の従業員J氏は、会社での勤務期間が12年を超え満55歳に。
昨年7月から高血圧で休養が必要になったことを理由に頻繁に病欠をとり、会社の正常な業務に著しい影響を与えたそうです。
会社が協議で離職を要求した際、J氏は大金をふっかけ、会社に法定経済補償金の2倍を要求しました。

勤続年数が長い従業員は、法律的な保護がかかる年代(定年5年前から)になると働かなくなる事が多いそうな。しかも、なかなか解雇が難しいのが現状です。
会社から離職を要求すると、色々と言って補償金等を釣り上げられることも多いそうです。

事例4:ライバル会社への情報漏洩問題

A社社員が競合会社のB社にビジネスプランを漏洩し、さらに、B社から賄賂を受け取っていました。
その社員は、A社を退職しB社へ就職。
その社員は優秀な社員だったようで、A社への損害は大きかったそうな。

事例5:不正の証拠を掴まずに解雇

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複数社員が不正にリベートを授受しているという情報(密告)が入る。
しかし、その証拠は一切に集まらない。(メールのやり取りだけでは証拠として不十分。)
その不正の確証をつかまないまま、社員の配置転換を行った。
でも、証拠が無いため、対応に非常に苦慮したそうです。

このケースの場合、不正を行った社員全員が自主退職したそうですが、確かな証拠が無いと、お金の返還を請求できないそうです。
もし、証拠が見つかって刑事告発した場合、数万元単位での罰金や懲役などの判決がでることも珍しくないようです。

事例6:管理体制の不備による不正精算

東莞の園区で交通手段が少なく、白タクを利用することが多く手書きの領収書でも交通費の精算を行なっていたそうです。
しかし、白タクの費用が6,000元/というありえない額となってしまい、これはおかしい・・・ということで管理体制の見直しを行ったそうです。

中国には誘惑が多く、不正方法も色々あります。
証拠をつかみにくいケースも多いです。

そんな場合は、毅然とした態度で対応するしかありません。

3.秘密情報の保護

どこの物流会社を使っているのか?
メンテはどうしているのか?
サプライヤーはどこの会社がいいのか?
コミッションはどうなっているのか?
従業員の福祉制度はどうなっているのか?

こういった情報は、ライバル会社は非常に気になるところですね。
では、こういう秘密情報はどうやって保護をすればよいのでしょうか??

実例

インターネット上の履歴書で、顧客リスト、業務内容、進行中のプロジェクト名など社内の秘密情報を掲載していた。

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自分をアピールするために、会社内の情報の詳細を記載するケースはしばしばあるそうな。
秘密保持の意識がまだまだ低い。
欧米企業などは、秘密漏えいについて厳しく処罰しており2~3年の実刑判決などもでているそうです。

争議のポイント

→ 秘密情報と認められるのか?
→ 従業員は上記情報について秘密保持義務をおうのか?
秘密情報の幅は会社で作ることができる。
法律では、会社が秘密だと思えば秘密制度を作ればそれで守ることができる。
大切なのは、その秘密情報を管理する制度をつくり、守ること。

秘密保持はどうやってするの?

→ 労働契約や就業規則に記載する。
重要な情報を持つ人とは、別途秘密保持の契約を結んだほうが良い。
→ 秘密情報の重要性を教育する努力も大切
→ 実際に秘密が漏洩した場合、その損害は非常に大きい。
秘密保持の抗議はちゃんとしたほうがよい。

守秘措置ってある?

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→ 秘密情報だとして印鑑を押せばそれで秘密情報として認められる。

競業避止契約書の注意事項

→ 競業避止対象:高級管理職、高級技術職、その他守秘義務を負う職員
日系企業や欧米企業の大手企業の場合は、ライバルへの転職の脅しとして利用する価値がある。

秘密情報侵害の責任追及

→ 秘密保持期間があるばあい、秘密保持期間が終了すればその情報は使うことができる。秘密情報であれば、いつまでも永遠に秘密にするような契約を別途結んだほうがよい。

→ また、秘密情報を漏洩or利用し始めた証拠を抑えれば、中国でも法的に追求できる。
賠償金も請求できるし、他社への転職も阻止できる。
(場合によっては、刑事責任まで追求も可。目安としては50万元以上の損害があれば刑事責任の追求ができるそうな)

経営者の方、泣き寝入りせずに秘密漏えいの情報を収集しましょう o(`・д・´)o ウン!!
また、秘密漏洩で権利を侵害された企業もその対応を間違えなければ、入札に勝つなど、ビジネス的なプラスの面もあるそうな。

ひとまず、漏洩阻止を行う努力が大事ですね。

王先生 ありがとうございました!

佐藤実行委員のコメント

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多くの日系企業は曲がり角。
日本市場は小さくなり、親会社の体力が小さくなるなどで経営方針の転換を迫られています。
過去のノウハウややり方、人材が役に立たない場合も増え、ココ数年は労務についてかなり激しく問題が発生しています。
親会社への利益還元は株配当でしかできなくなってきており、中国現地で儲けなければならなくなりました。
そうなると経営方法も当然変えなければなりません。
今日の勉強会の内容は、その問題を考える良い機会となったのではないでしょうか?

初参加者の紹介

  • 王 婷さん(上海今唯企業諮詢有限公司)
  • 松本 亮さん(大江橋法律事務所)
  • 高 原さん(上海邁伊茲諮詢有限公司・産休からの復帰挨拶)
  • 深野 久美子さん(東京フレックス法律事務所・例会としては初参加)

食事会

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会場:過門香(勉強会と同じ)
参加:25名
費用:200元
昨年の、年末会に引き続いて銀座の名門「過門香」を利用させていただきました。今回も、移動せず勉強会の会場を模様替えしての開催です。
日本風と上海風のミックス創作中華料理を美味しく堪能いたしました。
休日の非常に良い時間を快くご提供いただきありがとうございました!

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