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今私が欲しいシステム

今私が欲しいシステム

第7回 2007年5月

今回は「今私が欲しいシステム」と題してお話させていただきましょう。

1.予感と期待

私は仕事柄、世界のいろいろなオーディオ装置の音に触れることができます。
その時代時代で星の数ほどのブランドが登場し脚光を浴びたり又は泣かず飛ばずで消えていったりしました。
ステレオサウンドという日本を代表するというか世界を代表するオーディオ誌があります。
このくらい志の高い雑誌は世界的に見てもないでしょう。
この雑誌は1966年に創刊され年に四回発売されるのですが世界中の読者の方が影響されることが多いと聞いています。

香港でも中国でも中国語版が発売されています。
読者の方は雑誌の記事の中である評論家のオーディオ評論を読んで心が動かされるわけです。まず「欲しい 聴いてみたい よければ買いたい」と。
この段階においては,実際に音は聴いていません。しかし「素晴らしい音がしそうだ。自分の求めている音がしそうだ。もしかしたら今のシステムよりも….」というような「予感」があり更に言えば「これは私を助けてくれるはずだ。」と「期待」をするわけです。
私だけではないと思うのですが,実はこの段階が一番面白かったりすると思うのです。
これは旅行のプランニングが実際の旅行より面白いということに似ています。

「オーデイオは音楽を聴く道具」であると言う論調で展開してきたのにここで突然「音楽を聴かずにあれこれ想像している方が楽しい」とはどういうことだ。とお叱りをうけるかもしれませんが実際に買ってしまった後よりも買う前が楽しかった。ということは皆さんにも経験がおありではないでしょうか?

2.「ハーベスのスピーカー」

さて今私が注目しているスピーカーがあります。
Harbeth HL-Compact7ES-3というイギリスのブランドでイギリス製のスピーカーです。
日本語では
ハーベス(ブランド名)
HL-コンパクト7ES(スピーカーのシリーズ名)
-3(第三世代)
と言います。

私の記憶ではこのシリーズは1986年頃から発売されていてオリジナルモデルも非常に人気があったと思います。
当時はLUXのプリメインアンプとPhlipsのLHH500(フィリップスブランドのオーディオ機器は日本マランツ(株)が開発し販売していた)との組み合わせで大ヒットしていました。
100万円三点セットなどと呼ばれ「これをそろえれば十分。音は音楽性にあふれています。特にクラッシックを聞くにはベストなチョイスです。」
という推薦がオーデイオ誌上で盛んに行われていたのを記憶しています。

3.音楽性にあふれた音

このオーディオ評論独特の「音楽性にあふれた音」というのは当時よく使われたフレーズです。
当時はようやくCDプレーヤーが普及し始めた頃で「CDはデジタルくさくて冷たい音がする。」ということがよく言われていた時期です。

この「冷たい音」と反対の意味で「音楽性にあふれた音」という表現がよく使われたのです。
いまとなればこのことはCDの機械だけの問題ではなかったわけですが….
このようなCDに対する偏見の中でしたがCDフォーマットの開発メーカーであるフィリップスの部品を使ったCDプレーヤーは音楽性があるという点で評価をされていました。
1980年から日本マランツもフィリップスの子会社になり1982年には世界初のCDプレーヤーをマランツブランドで世界に向けて発売できたわけです。

フィリップスブランドはラジカセなどの一般品そしてマランツブランドは高級HIFIと二つのブランドを使い分けをするためにブランド買収(日本マランツを子会社化)したと聞いています。

さて世界初のCDプレーヤーはマランツブランドのCD63(当時¥198,000)とソニーのCDP101(縦型で価格も確か¥198,000)ということになっています。
このCD63は実際にはヨーロッパ製で輸入品でした。
すなわち部品も組み立てもフィリップスだったのです。
これ以降の低価格からミドルクラスまでのマランツブランドのCDプレーヤーはフィリップスのベルギー工場で生産され輸入品で安くて音がいいと評判になりました。

なかでも1985年発売のCD34は¥59,800という戦略価格の値付けと音質の良さで評判になり空輸でも追いつかないほどの大ヒットになりました。
ただその後日本市場だけはフィリップスブランドも高級路線での展開が始まり多少ブランドの棲み分けという点で混乱がありました。
私が入社したときもすでにフィリップスブランドの高級CDプレーヤーシリーズLHHシリーズが導入され市場ではヒットしていました。

先ほどあげた三点セットのLHH500(当時¥250,000)もそうです。
余談ですがLHHとはオランダフィリップス本社の研究所でCDを開発した研究者三人の頭文字をとったものです。

当時日本マランツのなかに独立した販売部が二つ存在し小さな営業所などは効率を考えて一人のセールスが二つのブランドのCDプレーヤーを販売していました。
フィリップスブランドのLHH2000(160万円)が業務用CDの最高峰として日本ではオーデイオマニアの最高機種として君臨し既に生産完了になっていたのですが最後の在庫を私も数台ですが販売した経験をもっています。
現在でも中古市場で当時の定価の半分くらいの価格で取引されているようです。

4.ピッタリ感としっくり感

さて音楽性にあふれた音がすると評価されていた三点セットの中のスピーカーのリバイスバージョンのHL7ES-3ですが日本での価格は1セットでJPY330,000です。
スタンドも七万円位で現在においてはこの値付けは戦略価格と言えるのではないでしょうか?
実際に購入の際には多少ディスカウントもありますからもっとリーズナブルな価格での購入が可能でしょう。

とえらそうなことを言っている私は実際には音を聴いたことはありません。
でもなんとなく予感がするのです。

このスピーカーを真空管アンプとマランツ等のSACDプレーヤーで鳴らしたらどうなるか?
私の想像ですが伸びやかな低音と滑らかな中高音がうまくつながると思うのです。
これは書くと簡単ですが実際難しいことなのです。
中国語で言えば写起来很容易但做起来很难です。
更に言えば一般家庭の部屋で音楽を楽しむのにピッタリの感じがするのです。この「ピッタリ感」も大事なことです。

もちろんトレンド的にも技術的にも最先端オーディオとはいえないでしょう。
世界を代表する名だたるスピーカーブランド,特に現代オーディオが目指す情報量優先の音場定位を志向した最先端のサウンドではないでしょう。
でも今やりたいのはこれではなく時代遅れともいえるこのスピーカーを真空管アンプで鳴らしたいのです。
私はノスタルジーに走っているのでしょうか?
違います。実はこんなことがあったのです。
たまたまなのですが日本で販売されている製品がこちらでは安く買えたので興味半分で買ってみたのです。
それはある中国メーカーの300Bのシングルの真空管アンプなのですがこれがなかなかなのです。
音楽を楽しむのにしっくりくる感じなのです。
この「しっくり感」が今の私にはここちよいのです。
「高域と中域のつながりが悪いだとか 低域のスピードが遅いだとか この位置からフルートが聞こえるのは録音の問題だとか」このようなオーデイオマニア独特ともいえるもしくは自業自得ともいえる悩み,(私の場合は職業病)を排除できるのです。
これらは音楽を聴く際には不必要いや大変邪魔でやっかいなものなのです。
言い換えればややこしいことを考えずに音楽に没頭できる感じ,
そうこれが今の私にとって「しっくり感」なのです。
逆に最先端オーディオ機器のシステムでは簡単ではないこの困難なことを簡単に実現してくれるような予感がするのです。
ちょっとした情報量を捨てれば音楽に浸ることが出来るというわけです。
ちょっとした情報量と音楽 どちらが大切か? 答えは簡単ですよね。

ということで次回は「オーディオの落とし穴」を考えてみたいと思います。

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