旧香港上海銀行(現、浦東発展銀行)

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第3回 2007年3月

香港上海銀行全景

前回は、租界の発展史についてお話しました。そこで今回はその続きとして、旧香港上海銀行について、お話したいと思います。

香港上海銀行は1864年8月香港で設立された。正式名称は“Hong Kong Shanghai Bank (HSBC)”と言ったが、香港の中国人は“匯豊銀行”と呼んだ。上海支店は、香港創業のすぐ翌年に設立された。

20世紀初頭、匯豊銀行上海支店の営業は対中国取引の中核をなしていた。その取扱額は既に香港の本店を遥かに凌ぎ、上海の外為市場の60%以上を取り扱った。また中国政府の関税と塩税を担保に、巨額の資金を政府に貸し付けていた。

1920年、外灘は既にアジアのWall Street, 金融センターに発展しており、HSBCもその名声に相応しい新たな建物を建設する必要があった。

そこで1921年5月、外灘12号(現中山一路12号)で新社屋建設が始まり、2年後の1923年6月に完成した。

建設に当たっては、1920年当時の頭取・A.G. Stephensの指示に従い、費用に糸目を付けず、他のどの建物より壮大で豪華、“外灘を支配するような建物”を目指した。それは上海で巨額の財産を蓄積した人々が、動乱の社会でも安全に預金できる所と感じるよう、十分権威のある建物として設計されたのだ。その結果、完成した新社屋は正に“スエズ運河からベーリング海までの間で最も素晴らしい建築”と賞賛された。

新社屋は、敷地面積9,338平米、建築面積32,000平米、地下1階、地上5階、中央部7階建てである。建築面積はほぼ正方形で、建築資材のほとんどは海外から調達された。

建物正面は壮麗な古典主義様式で、表面に花崗岩を積み上げ、2階から4階までバロック式の2本一組の石柱が2組貫いている。建築資金は銀800万両を要した。それは香港上海銀行の2年分の利益に相当した。

建物正面では、英国で鋳造され精緻を極めた2匹のライオンが入り口を守っている。それらは、銀行に最も必要な資質を表すよう、“慎重さと安全性”と名付けられた。

香港上海銀行天井画

建物正面の彫刻の施された3枚の青銅の扉を抜けると、そこは8角形の中央ロビーで、ドームの丸天井に描かれた輝くばかりのモサイク画が目を奪う。息を呑むほど美しく複雑なモザイク画は、ヨーロッパの教会のようだ。ドームの中心には、太陽の神アポロで、“太陽が沈むことが無い”と言われた大英帝国のシンボルであった。

ドームを囲む8つの壁面には1923年当時香港上海銀行の支店があった8都市と、8文字の社是“Within the four seas all men are brothers” が描かれている。8都市は、香港、上海、バンコク、カルカッタ(当時の英国インドの首都)、ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京で、これらは当時の世界の金融センターであった。それらはカルカッタを除けば、80年を経た今も世界の金融と権力の中心で、その地位に変わりがないことに驚かされる。

社是は、恐らく孔子の論語「四海の内、みな兄弟なり」から採られたと思われるが、世界に羽ばたいたHSBCの実力と意気込みが、まざまざと伝わってくるではないか。

ドームの周りには他にもモザイクで十二支が描かれ、ラテン語で、思慮分別、誠実、節制を含む16の徳目が描かれている。

8角形のドームの奥は、広々とした営業ホールで、全体がアーチ式ガラス天井で覆われている。更に壮麗な8本の継ぎ目なしのイタリア大理石の石柱が2千平米のホールを支えている。柱は重さ7トン以上で、この大きさの大理石柱はパリのルーブル美術館など世界に6箇所しかない。
大ホールは暖房設備だけではなく冷房設備まで備え、13台の電気エレベータが稼動した。地下には大金庫が置かれ、上層階には各国商会の事務所は入った。

ライトアップされる香港上海銀行

太平洋戦争が勃発すると、日本軍は匯豊銀行を接収し、建物は横浜正金銀行の管理に移された。しかし1945年、日本の敗戦とともに元に戻された。
1955年4月26日、匯豊銀行上海支店は上海市政府に譲渡され、市庁舎となった。
更に1995年7月1日、上海市政府は旧匯豊銀行ビルから人民広場に新たに建設した新市庁舎に移転した。1996年12月、浦東発展銀行が旧匯豊銀行ビルの使用権を獲得し、巨額の費用をかけて現在の姿に改修した。

香港上海銀行上海支店は、正に租界の象徴であった。その歴史を知る者にとって、いまでも外灘の中心、いや上海の中心的存在である。しかし今、外灘には香港上海銀行は存在しない。森ビルが浦東に作ったビルを買収して移転したのだ。香港を本拠とするHSBCの世界における実力は、今も変わりのないが、やはり寂しさを禁じえない。昔の建物のままで、営業を続けていて欲しかったと思うのは、我々だけの感傷であろうか。

(香港上海銀行は、2006年度株式総資産で、シティグループ、バンクオブアメリカに次いで世界第三位を誇っている。)

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