中国に赴任される技術者や管理者へ要求される条件①経営管理コーナー

第3回 2006年12月

前号まで、中国企業経営の要である総経理の役割について書きましたが、今号からもう少し現場に近づいた管理職や技術指導として、中国に赴任される日本人の方についておさらいをしたいと思います。

総経理以外の中国への赴任者は、大きく分けて下記3つの目的があります。

  1. 製造指導、技術指導、管理手法指導というノウハウ移管のための、数ヶ月~1年程度の短期赴任者。
  2. 副総経理或いは管理部長などの経営職または経営補助職として、数年間の長期赴任者。当面中国人には任せる予定がない職務に多い。
  3. 営業部長、製造部長、生産管理部長、財務部長など実際の業務責任と中国人管理者教育という使命をもって、管理職として数年間の長期赴任者。

ところが、実際に中国に赴任された方とお話をすると前記の3種類のどの目的で来られたのか不明確なケースが多いこと、さらには赴任期間すら曖昧なことに驚きます。

事例で勉強しましょう。

事例1 製造応援だけのつもりが管理職まで

上海市の金型製造日系A社は、工場ができたばかりで金型職人も育っていないが管理者も不在。管理者の養成兼まとめ役として日本の工場長経験者を工場長として赴任させた。しかし、会社設立と同時に受注があるため、初期段階では、日本人技能者が中心となって製造することとなった。金型製造というのは工程や機械の種類が多いことから、主な機械工程ごとに日本からS氏はじめ4人の職人を派遣して製造応援をさせることとした。

S氏は、放電加工機を使わすとA社一番であるが、部下は使ったことがない。製造応援なら問題ないだろうということで、6ヶ月派遣を決めた。

ところが、実際に派遣されると製造技能者の立場だけではすまなくなった。まず、工場長から、指導や管理への応援要求があった。中国人技能者からも、S氏の技能に憧れて指導を請うようになった。

結局周囲に押し切られるような雰囲気で、1年間赴任することに変わり、張り切って教え始めた。技能者が指導員に変わったのである。しかし、指導員は指導だけでは終わらず、管理・監督もする立場を兼ねやすい。S氏は何時の間にか、管理職の立場で工程管理や労務管理もするようになった。結果は6ヶ月で帰任に追い込まれた。

管理・監督業務ができなく職場が混乱したためである。その素質があるかどうか以前にその経験も教育もゼロで多数の(しかも、全員新人の異国人)部下を持つことに無理があったのである。このことは、会社としての損失以上に、S氏が大きく傷ついた。

当初の目的どおりなら立派に生産実績をあげ任期満了で凱旋するはずが、同じ6ヶ月でも失格者として任期途中で帰国しなければならなかったからである。

赴任目的と目標を自ら立てよ

赴任者は、冒頭に記したように主に3つの目的があって赴任します。それに対して明確な赴任命令書がない企業が多いことも冒頭に記しました。

何故赴任命令書を書かないのかと経営者にうかがうと「適任者がいないのだよ」「命令書を書いても理解されないよ」「誰を選んでよいか分からないので“とりあえず”曖昧なままで送り出し、現地で何とかしてくれるだろうと期待している」とのお答えが多いようです。

これでは現地責任者(総経理)は迷惑な話ですねー。「もっと、ましな者を送り込め」と言いたいでしょう。しかし、それが現実なら赴任者を教育するしかありません。

赴任者には、発奮していただくしかありません。「経営者がそんなつもりならやってやろうじゃーないか」と。そのためには、ご自分で赴任命令書を考えて作ってください。

何のために自分は派遣されたか。その目的を達成するための目標期間は?手段は?そして、そのためには自分に何が欠けているのか、どうやってそれを補うのか、勉強するのか、など課題と目標を列挙し、総経理と話し合い承認を得ていただきたい。これは、上司と自分との約束でもあります。できれば同輩にも公開して協力を得てください。

これは、赴任者の自己チェックでもあります。

事例のように途中から目的や目標が変わった場合にはなおさら必要です。心構えや学ぶことが変わるからです。

自ら目標設定してそれに向かって努力したならば、必ず変わった自分が見えるはずです。

以上の記事は、大陸共同メディア㈱発行 月刊『大上海圏日企情報PRESS』に連載
2006年11月号から転載・再編集

島根 慶一

佐藤中国経営研究所・上海知恵企業管理諮詢有限公司 佐藤 忠幸

経営管理コーナーでは、中国での企業経営はいかにあるべきか、事例を中心としたご紹介をしています。

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