中国に赴任される技術者や管理者へ要求される条件③経営管理コーナー

第5回 2007年02月

管理職や技術指導として、中国に赴任される日本人の方について、さらに事例を元におさらいをしたいと思います。

事例3:頭越し指示の弊害

上海の日系化学成型C社は、2人の製造技術者が赴任している。

C社は、製造系赴任者は全て顧問とし、製造責任者には中国人を課長として据えた。ところが、日本人顧問は直接作業者に工程変更や仕様変更を度々指示してしまった。改善を急ぐあまりの越権行為であるが、顧問たちはそのつもりはなく、ごく気軽に行っていた。中国人製造課長から辞表が出されて初めてこのことが明るみにでたのである。

中国人は、面子を重んじる。課長の頭越しに部下へ直接指示が度々行われていれば、課長の面子がなくなる事は自明の理。顧問団への教育不足が招いた事件であるが日系企業ではよくあること。

緊急時で直接指示した場合は、事後にでも課長にそのことを説明し理解を得、なおかつ確認を依頼していれば問題はなかったし、感謝されたであろう。

原則、組織の長は中国人を。成果は中国人のもの、失敗責任は赴任者が負え。

前号で日系企業の不人気な理由の一つに日本人が幹部を占めていること、そしてその問題点を書きました。したがって、どうしてもという要のポスト以外は中国人に早くから渡して、実務及び管理手法を指導しなければなりません。当然、責任も権限も彼らに委譲します。日本人赴任者はそれを影で支える顧問として活躍していただくこととなります。

会社によっては、子会社に出向すると2階級特進する制度があります。日本で班長が中国で課長に、係長は部長に、課長は副総経理に、部長は総経理にというわけです。

中国子会社でそれをすると必ず失敗します。組織の長が日本人で占められてしまうということと、未経験者がその任に就いてしまうからです。

監督職と管理職は異なります。管理職と経営職は当然異なります。経験も教育も受けていない者が、日本よりも管理や経営が難しいのにもかかわらず上位ポストに就いて、それを指導する先輩もいない中では、暗中模索状態が続きます。

日本人赴任者が顧問だからといって、責任がなくなるわけではありません。中国人幹部や技術者を指導し、成果を出させるという任務は変わらないからです。

しかし、実務はラインで、すなわち中国人幹部の指揮命令系統を使って行います。当然成果が出ればラインの、すなわち中国人の手柄として誉めなければなりません。失敗責任も当然ラインにもありますが、ラインのせいにはせずに指導が悪かったとして顧問団が責任を負わなければなりません。

この姿勢を貫いている限り、中国人幹部から感謝・尊敬されることは間違いありません。

異国で働くには異国の文化を知る

中国の特殊性については前号で書きました。

中国5千年の歴史とよく言われます。また、「歴史を鑑として・・・」という事をよく聞きます。その歴史とは何でしょうか?その多くは後世の、現行政権が作った歴史ですから、何が真の歴史かは異論があるのは当然です。

重要なことは、何故その歴史を作ったのかという時代背景です。そのことを中国に赴任したら感じ取り、ご自分で考えてください。

もちろん、中国人気質とその背景や宗教観などの文化は肌で感じ取らなければ理解し会えません。その助けとして本も読まなければなりません。

相手を知らなくして付き合いもできませんし、使うこともできません。命令や権力だけでは動いてくれません。中国人の言葉や行動の背景を理解した上でどうするかを考えることが重要です。

赴任者は観察されている、尊敬されなければならない

赴任者の行動は、中国の職場では筒抜けだと思わなければなりません。

少し前の中国だと怪しげなクラブに行った翌日には全職場にそのことが伝わっていたという話がありました。公安から会社の誰かに通報があり、職場の話題にされたからです。今ではそれほどの極端な事例は減りましたが、似たようなことはいくらでもあります。上海領事館員自殺事件もその表れです。

職場での行動や言動も全く同じです。赴任者には黙っていてもじっと観察されていることをお忘れなく。

日本からの赴任者は、中国人の数倍の給与と経費がかかっていることは大部分の中国人が知っています。したがって、日本人赴任者は神様的存在でなければなりません。

具体的には次の3項目の内、最低2項目は尊敬され続けなければ存在価値を認められないということは、総経理偏(中国での総経理の役割①中国での総経理の役割②)でも書きました。

①尊敬される人格と人望
②尊敬される業務遂行能力
③尊敬される行動力

赴任当初は、業務遂行能力だけでも尊敬されます。しかし、ある程度技術移管が進むと他の面でも尊敬されなければ仕事になりません。尊敬できない顧問の言うことをまじめに聞くわけがありません。

普段の貴方の行動がどうであるのかは、ご自分の周りに集まった中国人を見れば分かります。自分の周りに集まった中国人は自分の行動の鏡です。それを見てご自分の行動を見直してください。

個人目標を立て ~何のために今中国にいるのか~

最後に一つお願いです。

赴任者は自分で赴任目的と目標を書く様にお願いしましたが、個人目標も立ててください。
中国に数年間赴任ということは、チャンスをいただいたと前向きに考えてください。そのチャンスを活かしてどう数年間を過ごすかということは、人生の上で計り知れないプラス効果を得られます。業務上の目標設定だけで終わらせず、個人の目標設定が必要だという理由はここにあります。

目標例は、中国全土を旅する、そのために中国語をいつまでに学ぶ、歴史を学ぶ、友人を何人作る(他社の日本人、中国人)パソコンを学び活用する、XX文学全集を読破する、自炊レパートリーをいくつにする、水泳教室に通い1km泳げる様にする、等々幅広く、中国勤務でなければ難しいことを掲げてください。熟年の方は、ついでに老後の趣味を作ってください。そして赴任数年間を公私共に有益に過ごしてください。

上海ビジネスフォーラムへの参加も、その有効な手段の一つですね。

ある統計では、日本人海外赴任者の自殺は全世界で400人を超えています。その内200人が中国赴任者という恐ろしい数字です。また、あるメンタルケア病院での患者の80%が中国からの帰任者と云われています。

是非、仕事以外の目標を見つけて有意義に過ごしていただきたいと思います。そして、この読者にはそうならないことを祈っております。

もちろん、ご本人の努力だけでは無理です。赴任前の教育や赴任ポストその他の親会社の理解と、ご協力が不可欠であることは言うまでもありません。

現地化するために、どんな中国人をどうやって活用するのか、こんな観点から次回以降考えて行きたいと思います。

島根 慶一

佐藤中国経営研究所・上海知恵企業管理諮詢有限公司 佐藤 忠幸

経営管理コーナーでは、中国での企業経営はいかにあるべきか、事例を中心としたご紹介をしています。

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