人材の現地化③ 退職防止と無期限契約対策経営管理コーナー
日系企業は人材の現地化は避けて通れません。中国で現地化するために、優秀な者をいかにして定着させるか皆さんご苦労なさっています。一方で、新たに来年から施行される労働契約法で規定された、無期限契約にどう対処するかという問題が起きています。今号はこれについて考えてみます。
1.会社を辞める理由は「会社がいや」というより「ジョブホッピング」
給与を高くすれば退職は防げるのか?・・・
最も重視されるのは、何故その評価かの納得性会社を辞める者は、何も会社が嫌になった、仕事が嫌になった、だけではありません。 日系企業の多くは、(彼らにとっては)長すぎる経験と勤続を重視する傾向があります。結果的に、日系企業で学び箔をつけてから、欧米系企業で高い地位と給与を目指すことになります。
「ジョブホッピング」は自然なことであり、中国だけの現象ではありません。 一般的に、新人から中堅社員へ、中堅社員から中堅幹部へ、中堅幹部から高級幹部へと3回繰り返します。
ジョブホッピングに対応できない企業は、職業訓練所になります。これを避けたければ、社内ジョブホッピング制度(抜擢制度)と、それに対応した評価制度・賃金制度が必要です。
事例で勉強しましょう。
事例1:能力と給与、成果評価と給与
南京にある日系ソフトM社の例。
この会社では高給なシステムエンジニアの退職が相次ぎ、賃金体系の見直しをして欲しいということで相談を受けた。賃金の分析をし社員の意見聴取をした結果、次のことが分かった。
- 賃金水準は他社に比べても地域相場に比べても遜色がない、むしろ高い
- 賃金制度的には問題がない
- 部門ごと(幹部ごとに)給与のばらつきが大きい
- 評価方法が不透明であり評価に対する不信感が大きい
- 評価結果に対するフィードバックがない
結論として、賃金体系はそのままとし、人事考課制度を作り、考課者訓練(管理者教育)をして改善した。
~ 給料が高ければ退職しないという話は嘘 ~
給与が高ければ定着するか?
給与が、一定以下の場合はモチベーション低下の要因になるので、ある水準は維持しなければなりません。しかし、一定以上の給与はモチベーション向上の邪魔になります。事例1のM社もこの例です。
ある幅で業界・同職種・地域での給与水準を保つのは(外部公平性)当然ですが、それだけでは定着しません。社内での、同僚間、他職種間、職場間などの内部比較(内部公平性)も重視されます。人事制度の重要性が云われる所以ですね。
最も重視されるのは、何故その評価かの納得性です。M社はこの考課制度が欠けていました。そしてフィードバックのない人事考課は、意味が半減してしまいます。説明できない曖昧な考課はしない方が良いぐらいです。
中国では、誰が幾らの給与だということ、誰がどういう人事考課結果だったということは、ほとんどの者に知れ渡っています。優遇された者はその意味も知らないのに自慢し、冷遇された者は意味も分からず怒ります。ある者は面子がなくなり黙って辞めます。下世話の評判になる前に、何故その評価なのか今後に何を期待するのか、正しくフィードバックし、理解を得ることが日本以上に必要である所以です。
2.優秀な者の永年勤続・無期限契約は歓迎すべきこと
人事考課の重要性についてもう一つの事例をみます。
事例2:永年勤続者が多いことの功罪
蘇州郊外の日系組立てN社での事例。
創業して約10年の会社である。組立てという事業の性格からある程度熟練を要する。従って総経理は「我社の社員の60%以上は、もうじき10年勤続となるよ」と自慢していた。
それから、しばらくして総経理が替わって労働争議となった。
労働法(第20条第2項)で、勤続10年を越す者の雇用契約は無期限契約となり、経済補償金支払い対象者となる。すなわちこの会社では、数年以内に経済補償金支払い予定者を大量に抱えることになる。
新総経理は、これではたまったものではないと、10年勤続直前に全員契約解除し全員新規雇用契約をしたいと社員に申し入れたが聞き入れられなかった。それでは、自主的に1年契約を望んでくれと説得したが、聞き入れるどころか反発をまねき労働争議となってしまった。
その他の不正行為も労働局に訴えられ、罰金まで食らう羽目となった。
事例解説:毎年の人事考課によりピラミッドを構成し維持する
この時、人事考課はいかにしているか、考課結果のフィードバックはしているか等を伺ったら、全て曖昧でした。すなわち、本来辞めてもらいたい者までが永年勤続者となったのです。
毎年、昇給と賞与のため、そして契約更新と最低3回は人事考課をする機会があります。ここで、信賞必罰を明確にして大きく格差をつけていれば60%もの者が10年勤続者になる訳がありません。逆に格差を大きくつけ、ダメな者は振るい落とすという毎年の努力、すなわちピラミッドを構成し維持する努力を毎年していれば、10年勤続として残る者は優秀な者、会社にとってかけがいの無い者ばかりのはずであり、無期限契約などは歓迎すべきですね。
来年から施行される「労働契約法」を考えるとなおさら重要なことです。 労働契約法第14条では、次のごとく規定されています。
「使用者と労働者が協議により合意に達すれば、期間の定めのない労働契約を締結することができる。下記状況の何れか一つに該当し、労働者が労働契約書の更新、締結を申請し又は同意する場合、労働者が期間の定めのある労働契約書の締結を要求することを除いて、期間の定めのない労働契約を締結しなければならない。
- 労働者が当該使用者において連続満10年間勤務しているとき。
- 使用者が初めて労働契約制度を実行するか、又は国有企業が企業の株式化改造により新たに労働契約書を締結する場合、労働者が当該使用者において連続満10年間勤務しており、且つ法定定職年齢まで10年間に満たないとき。
- 期間の定めのある労働契約を連続して2回締結し、且つ労働者には、本法第39条及び第40条第一項、第二項で定めた状況が存していなく、労働契約書を更新するとき。」
期間の定めのない契約、すなわち無期限契約は、契約を2回し契約期間満了した者なら権利を生じることになります。この表現は曖昧ですが、一般的には3回目の契約から無期限契約ができるといわれています。そうなると、入社時の契約(これが1回目の契約)と試用期間終了すなわち本採用とするか否かが第一の関門、次は最初の契約更新(これが2回目の契約)をするか否かです。この時の人事考課および昇給や賞与時の人事考課を厳密に行い、3回目の契約に備えておく必要があります。(なお、1回の契約は1年とは限らない、数年の契約でも1回は1回と数える)
人事制度が曖昧な会社は永年勤続者が多い。特に日系企業に多いことが問題です。
一方で幹部の定着率が低いと嘆いています。
ダメな者が安穏と過ごせる会社には、優秀な者が定着する訳がありません。
参考:永年勤続者にダメ人間が多いダメ企業の“こわーい”ストーリー
- 他社に移れない者が残り
- 怠惰に慣れきった者が残り
- 出る杭は打たれないように適度にがんばる
- そうこうしている内に年功型給与で高給になってしまった
- 人事の硬直化を招き
- 若者が育たず(日系企業は入社3年以内の退職率最高)
- 中国のことを知らない親会社の意向どおり仕事をし
- 競争力はなくなり
- 経営破たん
次回は、労働契約法に備えて労務管理はどうあるべきか、もう少し考えてみます。
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