労働契約法への対処③ 中国も長期雇用を前提、人員整理における雇用継続の優先権経営管理コーナー

第12回 2008年10月

中国の労働慣習は、1年契約の短期雇用が前提でしたが、日本のように長期雇用を目指すことが明確に打ち出されました。その代表的な条項は「固定期限のない労働契約の範囲拡大」と「経済補償金支給範囲の拡大」です。

これらは、各所で説明・解説されておなじみですので省かせていただき、今回は「人員整理における雇用継続の優先権」について解説いたします。

人員整理の必要要件は緩和

会社が人員整理を行ないたいと考えても、安易にできるものではなく、会社にとって危機的な状態となってはじめて認められるものです。

これは、労働法でも厳しく規定されています。労働契約法では、下記の③④が追加されて経営状況に応じて柔軟に対処できるようになりました。この意味では企業有利となったわけです。また、人員整理の定義も20名以上または10%以上と緩和されています。

  1. 会社が破産・再建状態となった
  2. 会社経営に重大な困難が生じた
  3. 会社の生産内容転換、重要な技術革新、経営方法の調整などにより、人員を削減せざるを得なくなった
  4. 労働契約締結時の客観的状況に重大な変化が生じて労働契約履行が不可能となった

人員整理の実施手続きは変わらず

人員整理の実施手続きは、労働法と変わらず、工会または従業員代表組織および全従業員に30日以上前に状況を説明し、かつ協議を行い意見聴取したうえで、人員削減案を労働行政部門報告しなければなりません。

人員整理は社歴の浅いものから

最も注目すべきものは、雇用調整のための人員整理対象者です。

労働契約法にて明記された内容は下記で、これは過去のどの法規・条例にもない画期的なものと言えます。

「人員削減にあたっては、次の者を優先的に継続雇用しなければならない」

  1. 会社と、比較的長期にわたって契約を継続している者
  2. 会社と、固定期限のない労働契約を締結している者
  3. 家族に、扶養を要する老人または未成年者を有する者

つまり、社歴の浅い給与の安い新人から解雇すべしということであり、熟年や給与の高い者を狙い打ちにした指名解雇はできません。

欧米では先任権と言われている内容であり、日本よりも厳しい条文です。

多発した駆け込み人員整理

企業の存続安定のため、人員整理そのものはある程度認めるとの理解は示したものの、労働者の保護のため長期雇用者と弱者に対しては保護するぞという内容です。これを嫌って、2007年中の駆け込み人員整理が多発したことは御承知のとおりです。

その最も有名な事例は、某食品メーカーです。

昨年10月から12月にかけて、勤続5年以上または45歳以上の従業員を解雇しました。この目的はコストダウンのためです。安い新人を、必要によって順次補充することによる労務費の削減効果は非常に大きいことは理解出るでしょう。

こんなことは、2008年以降は絶対に出来なくなりました。

永年勤続者は優秀な者だけにすべき

今後は、安易な雇用調整ができないことを前提に企業経営しなければならないし、勤続の長い者は優秀な者ばかりにしておかないと大変なことになります。

毎年の人事考課を厳密に行い、信賞必罰を貫く必要があります。信賞必罰は公平で透明な人事・給与制度がなければ実行できません。

それでなければ、低い査定を受け昇給が少なかった者が、不満を訴えたら対抗できませんよ。

島根 慶一

佐藤中国経営研究所・上海知恵企業管理諮詢有限公司 佐藤 忠幸

経営管理コーナーでは、中国での企業経営はいかにあるべきか、事例を中心としたご紹介をしています。

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