中国企業経営・管理のあり方シリーズ 社員教育①第19回 2011年10月

特に少ない社員教育費用

日系企業の人事担当者の会合を、傍聴する機会がありました。
彼らの悩みの一番は、人事労務に関する予算不足で、特に少ないのが社員教育費用です。
少ないだけなら未だしも、大部分がゼロです。この実態を如何に考えたらよいのでしょうか?

まだ、位置づけが低い中国現地法人

2008年の金融恐慌以来、中国現地法人の位置づけが見直され、下請けからの脱皮が見られるようになってきました。結果、資材と人材の現地化が叫ばれてくるようになってきました。その一つが、社員教育の充実です。
しかし、まだまだ現地法人の位置づけが低く、教育予算を取っていません。その都度親会社に決裁を求めています。決裁申請を出して認められるならまだ結構ですが、認めてもらえないケースが多いのが現状です。

  • 何故、事業計画にそれを組み込めないのか?
  • 何故、その決裁権が現地総経理にないのか?
  • 何故、教育計画を立てられないのか?

親会社の日本本社にもそのような習慣がないなら、いざ知らず、なぜ中国の子会社だけそれが認められないのか、実に不思議な現象です。

どうせ直ぐに辞めるのだから・・

この現象は、親会社の中国子会社を下にみるという悪弊だけでなく、中国不理解に原因があるようです。
中国人は直ぐに辞めるのだから教えても仕方ないというものです。
それでいながら、なかなか任せることができないと日本人は嘆きます。
確かに、中国人は日本人に比べれば転職が多いのは事実です。
だからと言って、教育をおろそかにすれば尚更嘆きは深まります。

日本の制度が特殊

日本は、人事制度・賃金制度・教育制度・退職金制度・人材登用基準など全てが長期雇用を前提として成り立っています。近年では、終身雇用制度はなくなったとはいうものの制度は変わっていません。賃金などはいまだに、学歴別・年齢別モデル賃金が幅を利かせています。実はこの現象は、むしろ日本が特殊だといってよいでしょう。

欧米企業や中国系企業では、終身雇用は企業にとっても、社員にとっても「百害あって一利なし」です。あくまでも、仕事の中身と実力で抜擢してもらい、賃金も上げてくれなければ不公平だということになります。それが現職で叶わなければ、転職をすることは労働者の権利でもあるわけです。

企業にとっても、その方が気楽です。永年勤続者にふさわしい、仕事や賃金を用意する必要がないからです。
未来永劫成長を保証できない日本の現状では、終身雇用制度が崩壊することは当然です。それでいながら、長期雇用が前提の制度は矛盾があります。

3年で90%は退職する

前記のごとく、中国人の退職率は日本のそれに比べて高いのは事実であり、3年後に残るのは10%だけ、すなわち90%もの人が3年以内に辞めます。

それは、企業にとって本当に困ることでしょうか?

実は、3年も勤務してくれれば問題ないという仕事は90%以上あります。もちろん業種によっては異なりますが、大部分の仕事は直ぐに(数日で)覚えられるものです。そんな軽い作業で数年、数十年勤めてもらって高い賃金を払う必要はありません。どんどん新しい社員に変わってもらえればよいのです。

しかし、この仕事だけは、このポジションだけは、長く勤めてもらいたいというモノがあるでしょう。それには、それにふさわしい者を高い評価で抜擢登用しなければ誰も残ってくれません。
そのきっかけの一つが社員教育です。

残って欲しい人材は教育しなければ残らない

社員教育には、次の4研修コースが代表的です。

①新入社員研修
②監督者研修
③初級管理者研修
④中・高級管理者研修

この他に、5S運動研修や専門職コースやマナー教育などがあります。新入社員研修は大部分の者が対象ですが、②以降は選ばれた者だけが参加できます。これが定着した企業では、教育研修に参加することが第一目標となります。さらに教育研修の場で鍛えられている間に、実力差が明確となり抜擢登用してよい者が見えてきます。結果は残って欲しい者はきちんと残ってくれるものです。

教育研修をしない企業は、残って欲しい者から先に辞めていく事実を覚悟していただきたい。つまり、永年勤続者は、どこにも行けない(転職できない)者ばかりの可能性が高いとうことです。

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島根 慶一

佐藤中国経営研究所・上海知恵企業管理諮詢有限公司 佐藤 忠幸

経営管理コーナーでは、中国での企業経営はいかにあるべきか、事例を中心としたご紹介をしています。

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