労働契約法への対処② 協議相手は工会か社員代表者組織か経営管理コーナー

第11回 2008年8月

中国労働契約法(以降は新法と略す)は、「労働者は経営者に対して弱いものであり、保護すべきだ」という観点から作られた新法であり、資本主義社会からみれば当然の法律です。

また、新法といいながら内容的には、既存の法規法令に規定されているものの再レビューが90%以上です。この代表が社員代表者との協議あるいは意見聴取の義務付けです。その、代表的な労働者組織が工会です。

工会と労働組合の違い

一般的に工会は労働組合と訳されています。では、日本の労働組合と何処が違うのか確認してみます。

  1. 工会は、労働者の主体性が弱く、政府や企業の支配介入を許している。
  2. 工会は、労働者の自主性が弱く、経営者の便宜供与を許している。というよりも、法律により義務付けられている(工会専従者の給与も会社負担を義務付け)。
  3. 工会の役割として、企業の発展成長に協力することが、これも、法律により義務付けられている。
  4. 結論として工会とは、中国独自の労働者組織

日本の労働組合との比較はできません。日本では、労働組合と認められないからです。共産主義青年団の“実質的な”下部組織である、中国独自の労働者組織です。

したがって、政府が、企業発展・経済成長を目指している限り(目指すことを止めるはずが無いが)工会が企業発展の邪魔になることはありません。“工会主導の”ストライキもありえませんし、むしろ抑止力が働きます。

経営者が日本の労使関係と同様な考えをもって、“育てれば“企業内のよき牽制機関、パートナーになり得ます

工会と社員代表者組織の違い

新法では、随所に「工会又は社員代表者組織」と書かれていますが、その違いは何でしょうか。

日本流にいえば、法内労組と法外労組と思えばよいでしょう。

工会は、当然法内労組の位置づけです。日本では、中国の工会は労組としては認められないので法外労組となりますが、ここ中国では法内労組です。ややこしい表現で申し訳ありませんが法内工会と表しましょう。法外工会が社員代表者組織です。社員代表者組織は、日本の法外労組と何ら変わりありません。

法内・法外どちらも、会社との交渉団体および社員の代表者組織として認められるには民主的な選挙で役員を選び、民主的な方法で運営・決議しなければなりません。

では、何が違うのか、法人格をもつか持たないか、上部団体に加入するかしないかぐらいしか違いがありません。法人格を持つとは組織として銀行口座を持て資金を集めることができます。上部団体は中国総工会であり、その地方総工会です。

独自で資金を集めることができなくても、闘争をしないのであれば闘争資金を集める必要はないし、専従役員の給与も企業負担を法定化してあるため、あまり意味が無いですね。

地方総工会に加入した場合のメリットもあまり感じません。工会を作る時には支援も指導もありますが、設立後はそれがないからです。しいて言えば、争議発生時の中止指導ぐらいでしょう。

地方総工会および地方政府にとっては、工会組織率を高めるという目標達成のため、そして、上納金確保のため、工会設立を強く勧めますが、企業にとってはどちらの組織でもよいわけです。

しかし、工会は一旦作ると、作ったという安心感で、労使双方とも何もしない傾向が強くあります。法外工会である社員代表者組織は、常に民主的運営をしなければ、労働者あるいは地方総工会および地方政府からの圧力で工会への脱皮を迫られます。したがって、健全な労使関係の構築をするためには、社員代表者組織の方が、緊張感があってよいともいえます。

形式ではなく中身、パートナーとして育てよ

では、何故日系企業の多くが工会を作らないのか、一つには、日本では、労働組合を敬遠する経営者が多い。ましてや社会主義の中国で工会を作るなんて、とんでもないと敬遠する経営者が多いからです。しかし、中国の工会とは何たるかを勉強すれば恐れることはありません。

他の一つの理由は、前記の工会の性格と上部団体の支配介入を嫌う経営者が多いということです。また労働者自身も同様に工会を嫌う傾向があります。

いずれにしても、会社が様々な政策を実施する場合の交渉・協議相手は必要と義務付けられています。それを、形式的な労働者組織で逃げるか、きちんとした労働者団体を作らせるかが問題です。どうせなら、パートナーとして育てられる団体を作るべきであり、形式ではなく中身が問題となります。

労働者の自主性を待っていたのでは作れない

なお、工会或いは社員代表者組織を作れと、前述していますが、本来は労働者が自主的に作るべきです。法律にも会社が作れとは書いてありません。労働者が作ることを妨げてはいけないと書かれているだけです。

しかし、労働者は前記の如くそれを作りたがりません。

労働者が作りたいと思ったときには、余程労働環境が悪く切羽詰った時でしょう。したがって、過激な思想の組織となりかねません。そうなる前に、労働者の要求や意見を適切に吸い上げる健全な組織を、会社主導で作るべきです。

冒頭に書きましたように、中国では、その行為は違法ではありませんので安心して行なってください。

島根 慶一

佐藤中国経営研究所・上海知恵企業管理諮詢有限公司 佐藤 忠幸

経営管理コーナーでは、中国での企業経営はいかにあるべきか、事例を中心としたご紹介をしています。

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